
リヒテルが1984年3月27日に東京都文京区にある「蕉雨園」で行った「幻の東京リサイタル」。
明治時代に建設された、回遊式庭園に囲まれた純日本家屋の邸宅で行われた非公開のリサイタルの貴重な録音である。
演奏プログラムは、ハイドンとドビュッシーの作品で構成されている。
ピンと張り詰めた静けさの中、
1曲目のハイドンの明るく透明な音を合図にコンサートは始まる。
張り詰めた空気は、次第にお茶室でお茶を楽しむような雰囲気へと変わっていく。
人の温もりを身近に感じながら、一期一会のひとときを過ごすような和やかな時間が流れ、
演奏も生き生きとしてくる。
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リヒテルは、日本家屋でリサイタルを行うにあたってハイドンをプログラムに入れたいと言ったそうだが、
ハイドンの慎ましやかで清澄な美しさは、侘び寂びの心にも通じるものがあるようで、
不思議と日本的な雰囲気に溶け込んでいる。
ドビュッシーの音楽では、一転、
音色が鮮やかな色彩を帯び、庭の鳥のさえずりさえもが音楽の一部となって、
庭園の景色が浮かんでくるようである。
☆
リヒテルのすばらしい演奏と、音楽家としての感性を通して、
日本の文化とクラシック音楽が互いを見事に引き立て、調和し、
ヨーロッパなどのホールやサロンでは味わうことのできない独特な世界を作り出している。
【プログラム】
- ハイドン:
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- ピアノ・ソナタ第24番 二長調 Hob.XVI.24
- ピアノ・ソナタ第32番 ロ短調 Hob.XVI.32
- ドビュッシー:
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- 「前奏曲集第1巻」より
- デルフィの舞姫たち
- 帆
- 野を渡る風
- 音と香りは夕暮れの大気に漂う
- アナカプリの丘
- 雪の上の足跡
- 西風の見たもの
- とだえたセレナード
- 沈める寺
- パックの踊り
- 「映像第1集」より
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- 水の反映