
ピアニストにとって、"Intermezzo"と聞いてまず思い浮かべるのは、
ブラームスの小品集ではないだろうか?
壮大な交響曲や室内楽曲などを数多く作曲したブラームスが
最晩年に残したのは、慎ましやかなピアノのための小品集だった。
その中に収められている数々の”Intermezzo (Intermezzi 複数形)"は、
1人静かに自分の心と向き合うブラームスの
最後のメッセージのようだ。
ブラームスの"Intermezzo"の中で、私にとって最も印象深い作品は、
"作品118-第2番"だ。
_________________________________________________________________
ちょうどドイツに留学して初めての冬を迎えようとする頃だった。
知人の演奏会に出かけた私は、こじんまりとしたしたサロンで演奏された
ブラームスの"Intermezzo"に強い衝撃と深い感動を覚えたのだった。
”ささやくように始まる冒頭のメロディ、心の叫びのような物悲しくも激しい中間部、
複雑に絡み合う多声の旋律、心の奥深くまで入り込んでくるような和音の深い響き。
わずか数分の”間奏曲”の中に、ブラームスの壮大な世界が詰め込まれている.......”
・・古い石畳と赤れんが色の屋根が立ち並ぶ街並み、冬の訪れを感じさせるような暗い灰色の空、
時折鳴り響く教会の鐘の音.......
そんなドイツの景色にブラームスの"Intermezzo"の響きがとけ込んでいくように感じられた。
"ブラームスの音楽はこういう環境の中で生まれ、受け継がれてきたのだな。"
"どんな難しい本を読むより、大きなホールの演奏会に行くより、
作曲家自身が生まれ育ち、作品が生まれた場所に立って、
空気を感じたり、その作品が守られてきた年月を肌で感じとる事から
伝わる事や教えられる事がある。"
右も左もわからず、異国の地で歩み始めた私にとって、ドイツで暮らし、音楽を学ぶ事の
本当の意味を指し示されたような体験だった。
それから今日まで、この曲を弾く時はいつも、ピアニストとして学び始めた原点を思い出すのだ。