
ピアニストは一人一人異なる音を持っている。
その人にしか出せない唯一無二の音。本当に優れたピアニストは、”最初の一音”で聴衆を曲の世界に引き込んでしまう。
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ミケランジェリの音は妥協を許さない。
恐ろしいほどに研ぎ澄まされ冴え渡った響き・・
透明でありながら、その指先からは色彩豊かな音色が生まれる。
前回のブログで紹介させていただいた”枯葉”を含む『ドビュッシーの前奏曲集第2巻』は、ドビュッシーの後期の最高傑作である。次第に複雑で難解になっていくドビュッシーの世界を、ミケランジェリはその鋭い洞察力で掴み取り、冷静で完璧にコントロールされたテクニックと豊かな感性で見事に描き出している。ミケランジェリのドビュッシーを聴くと、複雑で理解し難く思われた音楽が、こんなにも美しく幻想的な世界を作りあげているという事に改めて気づかされる。
ミケランジェリの演奏は、完璧主義ではあるが、決して冷たくはない。
羽音のように繊細なパッセージやコロコロと転がるトリル、躍動するリズム、力強い和音、霞がかったように溶け合う響き、空気中に漂う香りのように心に残る余韻・・
”すべての音に生き生きとした命が吹き込まれているかのようだ!”
ドイツ・グラモフォンによる『ドビュッシー”前奏曲集第2巻”』の録音は、ドビュッシー後期の最高傑作をミケランジェリが色鮮やかに描き出した不朽の名盤と言えよう。
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アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ。イタリア出身のピアニスト。20世紀において、音色・テクニック共にコントロール能力に非常に優れたピアニストの一人として知られ、音楽的に完成度の高い演奏を行う完璧主義者として有名である。その強い完璧主義からコンサートのキャンセルを頻発する”キャンセル魔”としても有名。19歳でジュネーヴ国際コンクール優勝、「リストの再来」と賞賛された。演奏活動を行う一方で、ショパンコンクールを始めとする数々のコンクールの審査員を務める。また、多くの弟子を指導した事でも知られ、マウリツィオ・ポリーニやマルタ・アルゲリッチも指導を受けた。
コンサート・ピアニストとしてはレパートリーの幅が狭いが、ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ブラームス、ドビュッシーの作品を好んで演奏した。完璧主義者としてのこだわりのため、正規の録音は少ないが、その中でドイツ・グラモフォンにおける一連のドビュッシー作品の録音は、『ドビュッシー演奏の基準の一つ』と見なされている。
ピアニストとしてだけではなく、医師・パイロット・レーサーなどの肩書きを持っていた。
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