
2020年は、『ベートーヴェン生誕250周年』の記念すべき年です。
本来であれば、ベートーヴェンの音楽や生き様に触れ、この偉大な”古典派最後の巨匠”について深く知ることのできる良い機会でした。
‥しかし、新型コロナウィルスの感染が世界中で拡大し、それに伴い、私たちの生活も一変してしまい、しばらくは音楽に触れる心の余裕すらありませんでした。楽しみにしていた数々の演奏会もキャンセルとなり、それどころか、これからは時代の変化と共に演奏会やレッスンのスタイルも変わっていかざるを得ないでしょう。
ベートーヴェンの記念となる年が、”世界が困難に立ち向かう時代への幕開け”となりました。
‥”これは偶然なのだろうか…?”
‥と私はコロナと戦う不安と忍耐の日々の中でずっと問い続けています。
なぜなら、ベートーヴェンは自分の生涯を、不幸な人々、悩める人々を勇気づける音楽を作るために捧げた音楽家だからです。
ベートーヴェンは自己の芸術を通じて、”不幸な人類のため”、”未来の人類のため” に愛と勇気を与え、困難や試練に打ち勝ち、徳を高め誇り高く生きることを鼓舞することが自分の義務だと感じていました。
”僕の芸術は貧しい人々に最も良く役にたたねばならぬ”
”不幸な人は、自分と同じ一人の不幸なものが、尊敬に値する芸術家と人間との列に加えられんとして、自然のあらゆる障害と闘い、全力を尽くしたことを知って慰められるがいい!”
”音楽は人々の精神から炎を打ち出さなければならない”
”音楽は道徳的な力であり、それを表すことが個人的使命である”
ベートーヴェンは、それまで王侯貴族の楽しみであった音楽を、”一般市民”、その中でも特に苦しみを抱えた人々を励ますものとしました。また、ベートーヴェン自身もフランス革命という激動と混乱の時代を生き、聴覚を失うという音楽家としての絶望の中でもがき苦しみながらも、決して負けることなく闘い続け、”一個の自立した芸術家”として人々を勇気づける作品を作り続けると共に、古典派からロマン派へと移り変わっていく音楽史にとっても激動の時代の橋渡しとして重要な役目を果たしたのでした。
”勇気を出そう。肉体はどんなに弱くともこの精神で勝ってみせよう!!”
ベートーヴェンの音楽を演奏したり、聴いたりする際に感じることは、音楽的には大変複雑なものが多く、様々な新しい試みがなされ、ピアノ曲についても高度なテクニックや重厚な響き、理論的な思考を読み取る力などが求められますが、その一方で、誰が聴いてもすぐに耳に馴染み、つい口ずさんでしまうような、シンプルでストレートなメロディーやリズムが直接心に響いてくるのです。
”心から心へ…♪”
芸術として完成された作品でありながら、その音楽は、まるで生きているかのように人々の心に訴えかけてくるのです。
(ベートーヴェン生誕250周年②に続く…)