昨年の11月末、歌舞伎俳優の２代目中村吉右衛門さんが亡くなった。
歌舞伎の世界で数々の素晴らしい舞台を作り上げ、人間国宝に認定された名優である。また、TVドラマでも活躍され、歌舞伎のみならず幅広い人々に愛された役者だった。
訃報を聞いて、いつか一度は吉右衛門さんの舞台を観劇したいと願いつつ、ついに実現せず、同じ時代に生きていながら貴重な機会を永遠に失った事を残念に寂しく感じた。
生の舞台を観る事は叶わなかったけれども、今はオンラインの時代である。舞台の空気感、演じている姿を少しでも感じ取れるのではないかと、吉右衛門さんの舞台を動画で観るようになった。
画面を通しての演技ではあっても、伝わってくる迫力や情感…
指や足の先まで研ぎ澄まされた身体の動き、目の動き、首を傾けるしぐさ、声色など、演じる役者のまさに『全身全霊』とはこの事かと、役になりきり役を表現する姿に圧倒された。
舞台に登場するだけで、立っているだけで輝きを放つ存在感✧✧✧
余計なものを削ぎ落とした動きの一つ一つが演じる役の心情を観ている者の心に直接訴えかけてくる。
毎回一度きりの舞台を演じるためにどれほどの芸の鍛錬と、人として内面を向上させ深める事に努力を重ねて生きて来られたのだろうか…
吉右衛門さんの演技や、彼が過去にインタビューやエッセイなどで語っている言葉などに触れる中で、いつしか私は自分を育ててくれた恩師の姿を重ねていた。
吉右衛門さんは歌舞伎役者としてのご自分の使命について
☐先代（人）たちが伝えてきた芸を受け継ぎ、次の世代へ伝えていく事
☐受け継いだ芸を自分のものとして役に魂を吹き込み、心も体も役になりきる
☐客受けをねらった芝居をしてはいけない、役になりきり、たとえたった一人の観客のためであっても
最高の芝居をすることが大切
☐観客一人一人の心に飛び込む芝居をする
☐舞台は一瞬で消えてしまうもの、それが醍醐味であり美しさである、だからこそ役者は一生を修行と思 い、毎日を初日と思って全力で演じなければならない（先代の教え）
☐経験や勘を人から人へ受け継ぐことの大切さを失ってはいけない。なくなってしまったら、もうつくれない。
と語っておられた。
私の恩師もまた、
☐作品や楽譜に忠実に、作曲家の意図を楽譜から読み取ることの大切さ
☐最高の演奏をするための日々の鍛錬、技術を磨き、一音で人の心をつかむこと、
そのために指先まで神経を張りつめて音の出し方（タッチ）を追求しなければならない。
☐自分の音によく耳をかたむけること
バッハの音、ベートーヴェンの音、ショパンの音など同じピアノ音楽であっても作品ごとに音色や響きは異なる。
その音を追求することの大切さ。
☐レパートリーを幅広く持ち、繰り返し弾き続けて曲を深めていくこと
☐演奏はショーやパフォーマンスに走りすぎることなく、代々受け継がれてきたクラシック音楽のスタイルを 演奏を通して観客に伝えること、また次の世代の音楽家に伝えていくことが基本とならなければならないこと
☐一生弾き続けなさい♪♪♪
ということを、レッスンを通して、またご自身の芸術家としての生き様を通して私たちに伝えて下さった。
日本とヨーロッパという異なる伝統芸術ではあるが、伝統を伝えていくということには多くの共通点があることに気づかされた。
https://www.piavie-lesson.com/2022/01/18/受け継がれる伝統文化①-中村吉右衛門さんの死に想う/https://www.piavie-lesson.com/2022/01/23/%E5%8F%97%E3%81%91%E7%B6%99%E3%81%8C%E3%82%8C%E3%82%8B%E4%BC%9D%E7%B5%B1%E6%96%87%E5%8C%96%E2%91%A1-%E6%81%A9%E5%B8%AB%E3%81%AE%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E7%B6%99%E3%81%90/https://www.piavie-lesson.com/2022/01/23/%E5%8F%97%E3%81%91%E7%B6%99%E3%81%8C%E3%82%8C%E3%82%8B%E4%BC%9D%E7%B5%B1%E6%96%87%E5%8C%96%E2%91%A1-%E6%81%A9%E5%B8%AB%E3%81%AE%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E7%B6%99%E3%81%90/
（画像：中村吉右衛門 楼門五三桐 https://www.dailymotion.com/video/x709gwl）